建設現場の安全管理に不可欠な「工事安全衛生計画書」。本記事では、その目的や記載すべき項目、作成手順から提出方法までをわかりやすく解説します。
建設現場において必要不可欠な「工事安全衛生計画書」について、安全管理に欠かせない計画書の基本から作成・提出までの流れを丁寧に解説します。
工事安全衛生計画書とは
工事安全衛生計画書とは、建設現場における安全と衛生を確保するための基本方針や具体的な取り組みを記載した文書です。この計画書は、労働災害を未然に防ぎ、作業員の安全意識を高めることを目的としています。作成は法的に義務付けられているわけではありませんが、元請け企業から提出を求められるケースが多く、実務上は重要な書類とされています。
また、工事安全衛生計画書は、全国建設業協会が定めた「全建統一様式第6号」のフォーマットが一般的に使用されていますが、元請け企業が独自の様式を指定する場合もあります。そのため、計画書を作成する際は、元請けの指示に従い、適切な様式を使用することが重要です。
このように、工事安全衛生計画書は、建設現場での安全管理を徹底し、労働災害を防止するための重要なツールとなっています。適切に作成・運用することで、現場の安全性を高め、円滑な工事の進行に寄与するでしょう。
工事安全衛生計画書の作成目的
工事安全衛生計画書の作成目的は、建設現場における労働災害の防止と、作業員の安全意識の向上を図ることです。前述したように、この計画書は工事の安全と衛生を確保するための基本方針や具体的な取り組みを記載した文書であり、作業員全体の安全意識を高めることを目的としています。
具体的には、以下のような目的があります。
- ・労働災害の未然防止
- ・安全意識の共有と向上
- ・作業手順の明確化と効率化
- ・法令遵守と信頼性の向上
以上のように、工事安全衛生計画書の作成は、労働災害の防止、安全意識の向上、作業効率の改善、法令遵守といった多くのメリットをもたらします。建設現場における安全管理の基盤として、計画書の作成と活用は欠かせないものとなっています。
目的ごとに詳細に解説していきましょう。
労働災害の未然防止
工事現場では、墜落、転倒、感電などのリスクが常に存在します。工事安全衛生計画書を作成することで、これらのリスクを事前に特定し、適切な対策を講じることが可能となります。例えば、高所作業における安全帯の使用や、電気設備の適切な管理などが挙げられます。
安全意識の共有と向上
計画書には、安全衛生方針や目標、具体的な安全対策が記載されます。これにより、作業員全体が共通の安全意識を持ち、日々の作業において安全を最優先に考えるようになります。また、定期的な安全教育やミーティングを通じて、継続的な意識向上が図られます。
作業手順の明確化と効率化
工事安全衛生計画書を作成する過程で、各作業の手順や必要な安全措置が明確になります。これにより、作業の効率化が図られ、無駄な作業や重複作業の削減につながります。また、作業手順が明確になることで、新たに現場に入る作業員への教育も容易になります。
法令遵守と信頼性の向上
労働安全衛生法では、事業者に対して労働者の安全と健康を確保する義務が課されています。工事安全衛生計画書を作成し、適切な安全対策を講じることで、法令遵守が実現されます。また、元請会社や発注者に対して、信頼性の高い企業であることを示すことができます。
工事安全衛生計画書の必要項目
工事安全衛生計画書には下記のような8項目が必要です。
- 1.工事安全衛生方針
- 2.工事安全衛生目標
- 3.工種・工種別工事期間
- 4.資機材・保護具・資格の区分/その種類
- 5.日常の安全衛生活動
- 6.危険性又は有害性の特定
- 7.リスクの見積もり
- 8.リスク低減措置内容の検討
これらの項目を適切に記載することで、工事安全衛生計画書は建設現場での安全管理を徹底し、労働災害を防止するための重要なツールとなります。適切に作成・運用することで、現場の安全性を高め、円滑な工事の進行に寄与するでしょう。
項目ごとにどのような情報が必要なのか、解説していきます。
工事安全衛生方針
工事の安全衛生に関する基本的な考え方や取り組む姿勢を記載します。
例えば、「作業前に指差し呼称を行う」「5S活動に取り組む」などが挙げられます。
工事安全衛生目標
安全衛生方針を具体的な数値目標として設定します。
一例として、以下のような目標を設定しておくと良いでしょう。
- ・「高所作業におけるフルハーネス安全帯の着用率を100%にする」
- ・「作業所内でのヘルメットの使用率100%を徹底する」
工種・工種別工事期間
工事で行われる各工種と、それぞれの工種の施工期間を記載します。
例えば、「足場組立工事:5月1日〜5月7日」「鉄筋組立工事:5月8日〜5月14日」などです。
資機材・保護具・資格の区分/その種類
工事で使用する資機材、保護具、必要な資格を記載します。
以下のように記載すると良いでしょう。
- ・「主に使用する機器設備:高所作業車、鉄筋切断機」
- ・「保護具:安全靴、軍手、フルハーネス型墜落制止用器具」
- ・「資格を有している者・配置を予定する者:玉掛技能講習修了者、アーク溶接作業者」
といった情報が必要です。
日常の安全衛生活動
現場で毎日あるいは定期的に取り組むべき安全衛生活動の内容を記載します。
具体的には下記の3点などが挙げられます。
- ・「作業前点検を実施する」
- ・「災害防止のために定期的なミーティングを行う」
- ・「作業終了報告を実施する」
危険性又は有害性の特定
工事で起こりうる危険について記載します。
例えば、以下のように作業区分と予想される災害内容について記載しておくと良いでしょう。
- ・「作業区分:鉄骨荷下ろし」
- ・「予測される災害(危険性又は有害性):トラックの荷台からの転落、墜落」
リスクの見積もり
危険性又は有害性の特定で示した項目に対し、危険性のレベルを数値で記載します。
例えば、可能性(度合)を1〜3点で評価し、重大性(重篤度)も1〜3点で評価します。これらを合計してリスクレベルを算出し、対策の優先度を決定します。
リスク低減措置内容の検討
特定されたリスクに対して、具体的な対策を記載します。
例えば、「作業場所の窪み部分を整地し、必要に応じて補強する」「高所からの転落を防ぐために、ハーネスを装着する」などが含まれます。
工事安全衛生計画書の書き方
工事安全衛生計画書の書き方についても解説していきましょう。
書き方は前述した必要項目への記載や、関係者の職名・氏名の記載などが必要になります。
具体的な書き方の手順は下記の通りです。
- 1.工事安全衛生方針と目標の設定
- 2.工種別工事期間の記載
- 3.資機材・保護具・資格の明示
- 4.日常の安全衛生活動の計画
- 5.危険性又は有害性の特定とリスクの見積もり
- 6.リスク低減措置の検討
- 7.関係者の職名・氏名の記載
以上の項目を網羅的に記載することで、工事安全衛生計画書は現場の安全管理を徹底し、労働災害を防止するための有効なツールとなります。適切に作成・運用することで、現場の安全性を高め、円滑な工事の進行に寄与するでしょう。
各項目に必要な情報は前述した「工事安全衛生計画書の必要項目」を参考にしてください。
工事安全衛生計画書は誰が作成するのか
工事安全衛生計画書の作成は、建設現場における安全管理の要となる業務です。前述したように、この計画書は、工事の安全衛生に関する基本方針や具体的な取り組みを記載し、作業員全体の安全意識を高めることを目的としています。では、実際に誰がこの計画書を作成するのか、解説していきましょう。
工事安全衛生計画書は、主に一次下請会社が作成し、元請会社に提出するのが一般的です。この計画書には、工事の安全衛生方針や目標、リスクの特定とその低減措置などが含まれます。一次下請会社は、自社および二次下請以下の業者の分も含めて、計画書を作成する責任があります。
作成にあたっては、現場代理人(現場責任者)が中心となり、工事の内容や現場の状況を把握しながら、安全衛生に関する具体的な対策を計画書に反映させます。また、必要に応じて、安全衛生担当責任者や工事担当責任者など、関係者と連携を取りながら作成を進めることが求められます。
元請会社の関与
元請会社は、一次下請会社から提出された工事安全衛生計画書を確認し、内容に問題がないかをチェックします。必要に応じて、計画書の修正や追加情報の提供を求めることもあります。また、元請会社は、全体の工事における安全衛生管理の統括責任を負っており、各下請会社の計画書をもとに、現場全体の安全衛生管理体制を構築・維持する役割も担っています
関係者の明確な記載
工事安全衛生計画書には、関係者の職名と氏名を明確に記載することが重要です。これにより、各担当者の責任範囲が明確になり、円滑な連携が図れます。また、再下請会社が関与する場合は、その関係者の職名・氏名・会社名なども記載し、全体の施工体制を明確にすることが求められます。
工事安全衛生計画書の提出先や提出方法について
提出先や提出方法は、建設現場の安全管理体制を確保するうえで重要なプロセスです。ここでは、提出先や提出方法について詳しく解説します。
工事安全衛生計画書は、主に以下の2つの提出先があり、提出方法には紙媒体と電子媒体の2種類があります。
それぞれ個別に解説していきましょう。
工事安全衛生計画書の提出先
工事安全衛生計画書を提出する先は、元請会社と労働基準監督署の2つがあります。
元請会社
一次下請会社は、作成した計画書を元請会社に提出します。元請会社は、提出された計画書を確認し、必要に応じて修正や追加を求めることがあります。また、元請会社は、全体の工事における安全衛生管理の統括責任を負っており、各下請会社の計画書をもとに、現場全体の安全衛生管理体制を構築・維持する役割も担っています。
労働基準監督署
法的には工事安全衛生計画書の提出義務はありませんが、労働基準監督署では、作成した計画書の提出を推奨しています。特に、労働者数が多い現場や高リスクな作業を伴う工事では、提出が求められることがあります。その際の提出先は工事を行う場所を管轄する労働基準監督署です。
工事安全衛生計画書の提出方法
工事安全衛生計画書の提出方法には紙媒体と電子媒体の2種類があります。
紙媒体での提出
従来は、紙媒体での提出が一般的でした。作成した計画書を印刷し、必要な署名・捺印を行ったうえで、元請会社や労働基準監督署に提出します。提出部数や提出期限については、事前に確認しておくことが重要です。
電子媒体での提出
近年では、電子媒体での提出が増えています。PDF形式で作成した計画書を、メールやクラウドサービスを通じて提出する方法が一般的です。電子媒体での提出は、書類の管理や共有が容易になるメリットがあります。
提出時の注意点
工事安全衛生計画書の提出時には下記の点に注意しましょう。
- ・提出期限の確認
提出期限は、元請会社や労働基準監督署によって異なる場合があるため、事前に確認し、余裕を持って提出することが望ましい - ・記載内容の確認
計画書の内容に不備や漏れがないか、再度確認する。特に、工事安全衛生方針や目標、リスクの特定と低減措置などの項目は、詳細に記載する必要がある - ・署名・捺印の確認
必要な署名や捺印が漏れていないか、確認する。特に、現場代理人や安全衛生責任者の署名・捺印は必須
以上の点に留意し、適切な提出先と方法で工事安全衛生計画書を提出することで、建設現場の安全管理体制を確実に構築することができます。
工事安全衛生計画書の作成時の注意点
工事安全衛生計画書を作成する際には、形式的な記入にとどまらず、実効性を持たせることが重要です。前述したように、計画書は現場の安全衛生を確保するための基本方針や具体的な取り組みを記載するものであり、作業員全体の安全意識を高めることを目的としています。そこで、計画書作成時の注意点を解説します。
工事安全衛生計画書を作成する際には、以下の3点に注意してください。
実効性のある計画書を作成する
計画書は、現場の実情に即した内容であることが求められます。机上の空論ではなく、実際に機能する計画書を作成することで、労働災害の防止につながります。例えば、危険性や有害性の特定、リスクの見積もり、リスク低減措置の検討などを具体的に記載し、現場での実施が可能な内容とすることが重要です。
定期的な見直しと更新を行う
工事安全衛生計画書は、一度作成したら終わりではありません。法令や基準の改正、企業組織や生産体制の変更、新たな化学物質の使用など、状況の変化に応じて定期的に見直し、最新の情報に基づいた内容への更新が必要です。これにより、安全衛生状況のさらなる改善が期待できます。
記載内容の正確性と明確性を確保する
計画書の記載内容に誤りや曖昧な表現があると、現場での混乱や安全管理の不備につながる可能性があります。特に、所長名や現場代理人の氏名、会社名などの基本情報は正確に記載し、誤字脱字がないように注意しましょう。また、リスクの見積もりや低減措置の内容も具体的かつ明確に記載することが求められます。
まとめ
以上、工事安全衛生計画書について解説しました。
今回の記事の内容をまとめると以下の通りになります。
- ・工事安全衛生計画書は、労働災害の防止と安全意識向上を目的とした重要な書類である
- ・計画書には、安全方針や目標、工種ごとの作業内容やリスク低減策などを記載する必要がある
- ・作成は一次下請会社が行い、元請会社や労働基準監督署に提出するのが一般的である
- ・提出方法には紙媒体と電子媒体があり、期限や記載内容に不備がないよう注意が必要である
- ・実効性を重視し、定期的な見直しと正確な記載を心がけることが重要である
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