作業員名簿は安全書類の1つで、作業者が新規で現場に入場するときに必ず求められる書類です。建設会社が作成する書類の中でも、特に頻繁に作成される書類であるといえます。
作業員名簿は2020年10月の建設業法の改正によって、施工体制台帳に添付することが義務づけられました。
この記事では、作業員名簿の概要と役割、作成手順と記入例、保存期間や提出先、作業員名簿に関するトラブル事例と対策などについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
作業員名簿の概要と役割
建設現場には、日々、さまざまな業種から多くの作業者が入出場を繰り返します。この現場に入場するすべての作業者の安全衛生管理のため、作業員名簿による作業者情報の把握は非常に重要です。
ここでは、作業員名簿の概要と役割について解説します。
作業員名簿の概要
作業員名簿は建設業法の改正により、施工体制台帳関連の書類を構成するものとして作成が義務化されており、現場入場前に提出する必要がある書類です。
この作業員名簿をベースにして、建設現場における作業者の安全衛生管理、労災事故発生時の緊急連絡、現場の人員配置状況の把握が行われます。
作業員名簿の記載内容としては、作業者の氏名、生年月日、職種、社会保険などの加入状況、資格、免許、緊急連絡先などがあります。
元請会社は、現場全体の管理責任を負うため、これらの情報を基に適正な管理を行わなければなりません。
作業員名簿は、施工体制台帳を構成する書類であるため、適切な保管方法による5年間の保存が義務づけられています。
作業員名簿の役割
作業員名簿の役割は、元請会社による建設現場の適正な運営のため、すべての作業者の情報を「見える化」することです。
建設現場は、他の産業と比較して危険が潜みやすく、少しの気の緩みが重大事故に繋がる可能性も高いです。そのため、元請会社は、「どのような人が、いつ現場に入場するのか」を把握しておく必要があります。
元請は作業員名簿の情報を基に、KY活動などの安全管理や緊急連絡体制、効率的な工程管理、良好な職場環境などを計画して実践します。
例えば、若年労働者や高齢者、外国人就労者の入場の際には、確認しておかなければならない事項がいくつかあります。情報を事前につかんでおくことで万全の準備を整えておくことができるのです。
作業員名簿の作成手順
作業員名簿の作成手順について、まず工事に関わる会社の基本情報と新規に入場する作業者情報を記入し、次に個人ごとに各種保険の加入状況を記入するという流れを説明します。また、作業員名簿作成時の注意点についても紹介します。
基本情報の記入
作業員名簿は下請会社が作成して、元請会社に提出します。一次下請会社は、二次下請会社以降の作業員名簿をまとめて元請会社に提出しなければなりません。
建設業には重層下請構造があるので、上記のような関係性を明確にする意味でも工事に関わる会社の基本情報はおろそかにできません。以下が一般的な項目になります。
- ・事業所の名称(現場ID)
- ・所長名
- ・作成日
- ・一次会社名(事業者ID)
- ・( 次)会社名(事業者ID)
- ・提出日
現場ID、事業者IDは、CCUS(建設キャリアアップシステム)に登録している場合に必要になります。
作成日と提出日は空欄のまま提出して、後日、元請会社が内容確認後に記入するというケースもあります。
作業者情報の記入
作業者情報は、元請会社が建設現場を管理するためのベースになる情報なので、より正確性が求められます。必要とされる項目は以下の通りです。
- ・ふりがな・氏名・技能者ID
- ・職種
- ・(特記事項)
- ・雇入年月日
- ・経験年数
- ・生年月日・年齢
- ・現住所
- ・家族連絡先と電話番号
- ・最近の健康診断日
- ・血圧
- ・血液型
- ・特殊健康診断日と種類
- ・建設業退職金共済制度・中小企業退職金共済制度
- ・雇入・職長・特別教育
- ・技能講習
- ・免許
- ・入場年月日
- ・受入教育実施年月日
- ・退職金共済手帳の所有の有無
新たな作業者が現場に入場したり、すでに名簿を提出した作業者が退場したりする場合は随時更新する必要があります。
保険の加入状況
作業者ごとに保険の加入状況を記載する項目があります。加入状況を明確にする保険は、健康保険、厚生年金保険、雇用保険などです。
まず、加入している保険の名称を記載します。健康保険は協会けんぽ、建設国保、国民健康保険などで、年金保険は厚生年金、国民年金などです。
健康保険・厚生年金保険の加入状況の記載では、事務所整理記号や事業所番号を記載してください。2020年10月以降、健康保険・厚生年金保険の被保険者番号の記載は原則禁止となっており、雇用保険の被保険者番号は下4桁のみ記入します。
作業員名簿作成時の注意点
作業員名簿作成時のミスで一番多いのが、添付すべき証明書類の写しのつけ忘れです。資格者証や免許証はもとより、年金手帳や雇用保険被保険者の写しなども求められることが多いです。
記入時に分からない項目については、とりあえず空欄にして提出することを元請会社に伝え、後日情報が整ってから更新するようにしてください。
作業員名簿は個人情報が多く記載されていますので、作成や保管の際には漏洩がないように十分な配慮が必要です。
作業員名簿の記入例
上掲の画像をもとに、作業員名簿の記入例を説明します。
・事業所の名称、現場ID、所長名
当該工事の事業所(作業所)の名称を記入します。CCUS(建設キャリアアップシステム)に登録している場合は現場IDの記載も必要です。
所長名は、元請会社の所長名の氏名を記入します。
・作成日、提出
作業員名簿の作成日、提出日を記入しますが、空欄にするケースもあります。
・一次会社名|事業者ID、( 次)会社名|事業者ID
一次会社名は、作業員名簿を提出する一次請け会社名を記入します。二次以降は、( 次)に次数を記入してください。
CCUSに登録している場合は、事業者IDの記載が必要です。
・ふりがな|氏名|技能者ID
作業者の氏名は、身分証明書などを確認しながら正確に記入してください。CCUSに登録している場合は技能者IDも必要になります。
・職種、※属性
職種欄には、一般的な職種名を記入します。「塗装工」「電気工事工」「造園工」「とび工」などです。
※属性は、下部の(注)にある記号の中から選択し記載してください。
・生年月日、年齢
生年月日の記入は、年号でも西暦でも構いません。ここで注意したいのが18歳未満の方の扱いです。
18歳未満の方が時間外労働や危険な作業を行うことは禁止されています。また、満15歳になってから最初の3月31日が経過するまでは、建築工事に関わる業務には従事できません。
・健康保険、年金保険、雇用保険
加入している保険の種類を記載します。例えば健康保険では、協会けんぽ、建設国保、国民健康保険などで、後期高齢者の方は「適用除外」と記載します。
年金保険は厚生年金、国民年金などで、すでに年金を受け取っている場合は「受給者」となります。健康保険と年金保険の番号の記載は不要です。
雇用保険は、雇用保険、日雇保険の中から該当するものを記入します。保険番号は下4桁のみ記載します。
・建設業退職金共済制度、中小企業退職金共済制度
上記の制度に加入している場合は「有」、加入していない場合は「無」と記載します。
・教育|資格|免許
「雇入・職長・特別教育」は、すべての作業者は「雇入時教育」を受けていることが前提なので記入します。その他、「職長教育」「フォークリフト」などの特別教育を受けている場合は併記してください。
「技能講習」には、各自治体の労働局に登録されている教育機関で受けた講習名を記入します。ない場合は、「なし」と記載します。
「資格」は、各試験を受験して合格したものを記入してください。例えば、施工管理技士や技能士、移動式クレーン免許などが該当します。
・入場年月日、受入教育実施日
当該現場に新規入場した年月日と、受入教育を実施した年月日を記入します。空欄にして提出し、後日元請会社が記入することも多いです。
作業員名簿の保管方法と期間
作業員名簿の保管方法に定めはありませんが、労働基準監督署などの監査に備えて適切な管理が求められます。保存期間については、労働基準法により規定されています。
作業員名簿の保管方法と保存期間について解説しますので参考にしてください。
作業員名簿の保管方法
作業員名簿は建設業法で作成が義務づけられており、施工体制台帳に添付して、工事現場のいつでも確認できる場所に適切に保管しておかなければなりません。
保管方法については特に定められておらず、紙媒体でも電子データでも構いません。電子化することで、保管スペースの削減や更新作業の効率化などのメリットがあります。
作業員名簿は、個人情報を含むため、紛失や破損に注意して保管することが必要です。また、電子データで保存する場合は、必ずバックアップをとっておきましょう。
作業員名簿の保存期間
労働基準法第109条により、安全書類である作業員名簿は、5年間の保存期間が規定されています。この5年間は作業員名簿の作成日から起算します。
この規定に違反すると、罰金や企業名公表などの罰則を受ける恐れがあるので注意が必要です。
労働基準監督署では、作業者の安全と健康の保持のため、建設現場に対して年1回から数回の頻度で定期的な監査を行っています。作業員名簿は、労働基準監督署や労災協(建設業労働災害防止協会)などの監査対象となる書類です。
作業員名簿の提出先と管理体制
作業員名簿の提出先と管理体制について、ポイントを説明します。
作業員名簿の提出先
作業員名簿は、下請会社が元請会社に提出します。二次以降の下請会社がある場合は、一次下請会社が取りまとめて元請会社に提出しなければなりません。
一人親方や雇用契約のないケースでは、自らで作業員名簿を作成して元請に提出します。
提出方法は、紙媒体でも電子データでも構いません。ただし、書式については「全建統一様式」か、それに準じた様式で作成することが推奨されています。
作業員名簿の管理体制
作業員名簿は基本的に元請会社が管理します。元請会社は作業員名簿を施工体制台帳に添付して、現場事務所などの、いつでも確認・提出できる場所に備えておく必要があります。
労働基準監督署の監査や発注者の確認などで閲覧を求められたときは、速やかに提示します。
作業者の安全や健康の保持のチェックや緊急時の連絡など、作業員名簿は頻繁に必要とされることが多い書類です。
作業員名簿に関するトラブル事例と対策
作業員名簿には、現場で働くすべての作業者の情報が正確に記載されている必要があります。できる限りミスがなく、後から修正の必要がないように作成しなければなりません。
作業員名簿に関する、よくあるトラブル事例を把握し対策をチェックしておくことは、作業員名簿の効率的な作成に有効です。
作業員名簿に関するよくあるトラブル事例
他の書類作成と同様に、作業員名簿の作成で多いのが、記載の漏れ・誤字・誤記です。正確な情報の記載が求められる作業員名簿では、管理上の問題にもなりかねないです。
作業員名簿には、常に最新の情報の記載が必須で、情報更新の遅れは事故発生時の連絡や対応に支障をきたす可能性があります。
その他、よくあるのが社会保険の加入状況の誤りや安全衛生活動の記録漏れなどです。
よくあるトラブルを避けるための対策
記載漏れ・誤字・誤記などを避けるためには、作成者とは別の職員による、資料と記載内容に齟齬がないかチェックする体制をとることです。
情報更新については、常日頃から情報更新の重要性を周知・徹底し、更新があった場合の連絡体制を整えておくことです。
社会保険の加入状況の誤りや安全衛生活動の記録漏れを防止するには、複数人でのチェック体制を構築することと、定期的に記録を管理するシステムをつくることが求められます。
現場ポケットで現場管理を効率化

施工管理の生産性を向上させる現場ポケットは、塗装、建設、リフォーム、設備などで働く多くの方に選ばれています。
特に評価が高いのは、現場管理に特化した機能である、トーク機能、アルバム機能、日報機能、報告書機能などです。これらの機能により、現場管理を大幅に効率化できます。
現場で起きるトラブルの多くは、現場に関わる方々のコミュニケーション不足が原因とされています。現場ポケットを活用すれば、円滑で精度の高いコミュニケーションが実現します。
また、現場ポケットが選ばれる理由の一つが、お客様の状況に応じた手厚いサポートです。「選んでよかった」と思わせてくれるサポートがあるから、登録ユーザー数35,465名、契約更新率95.5%の実績に繋がっています。
まとめ
作業員名簿は、作業者が新規で現場に入場するときに必ず求められる書類のため、特に頻繁に作成される書類の一つであるといえます。
作業員名簿は現場で働く作業者の情報を「見える化」し、安全衛生管理や職場環境の向上、緊急時の連絡体制など、現場を運営していくためのベースとなる重要な書類です。
正確性を第一に、必要事項をもれなく記入することが求められます。そのためには、名簿の各項目の記入に必要な情報を常に最新の状態に更新して準備しておくことが必要です。
作業員名簿は作成と保管を建設業法で義務づけられており、個人情報を多く含む書類でもあるため、取り扱いには十分な配慮をしなければなりません。
本記事を、効率的で適切な作業員名簿の作成を実践していくための参考にしていただければ幸いです。