建築業でよく使われている人工(にんく)とは、作業員1人あたり1日にこなせる作業量を表す単位です。
人工代とは、1日仕事して発生した人件費を指します。人工代は業種や職種によって相場が異なるため、工事の見積もりや予算管理に必要です。
人工代を正しく理解して計算すれば、工事の効率化やコスト削減につながります。
人工代の計算経験がない方は、次の項目について理解しておくのがおすすめです。
- ・人工代の相場について
- ・人工代の計算方法
- ・人工代の請求書の書き方
- ・人工代計算の注意点
- ・人工代計算に使う便利なツール
この記事では、人工についての説明や主な職種別の人工代の相場、計算方法から請求書の必要な項目まで解説していきます。
人工代計算における注意点や、スムーズに計算できるおすすめのツールも紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
人工とは?
建設業で用いられる人工とは、1人の作業員あたりが1日8時間労働できる量を表す単位です。
あくまでも1日8時間の労働に対する単位なので、残業時間は含まれません。
たとえば、作業員1人が1日8時間働くのに相当する仕事量を、1人工といいます。労働力として1日5人必要な場合は、5人工と表します。
人工は1日でこなせる作業量から、見積書や請求書を作成する際に必要不可欠な要素です。
人工代とは?
人工代(にんくだい)とは、作業員1人あたりが1日8時間労働して発生した人件費を示す用語です。
職人の賃金計算に使われてきた言葉で、現在では建築業界全体で使われるようになりました。
人工代は1日の労働の中に技術料が含まれた金額なので、作業した時間が5時間でも8時間でも人工代は変わりません。
基本的な計算方法は、作業日数に人工代をかけます。人工代を計算するときは、時間外労働や手当は含まれず、8時間労働に対する賃金として計上されます。
一般的なアルバイトなら、1日当たりの人件費は「時給×労働時間」で計算できますが、工事作業は仕事内容によって技術や難易度が異なるため、単純に計算できません。
作業員の人工単価は、基本的に依頼主と請負業者の間で決まります。人工代の相場については、次の項目で解説します。
人工代の相場
人工代は業種や職種によって異なり、人工代の相場は国土交通省が発表する「公共工事設計労務単価」でわかります。
令和6年3月から適用される公共工事設計労務単価について、人工代の相場は以下の通りです。
主要12職種
職種 | 全国平均値 | 令和5年度比 |
特殊作業員 | 25,598円 | +6.2% |
普通作業員 | 21,818円 | +5.5% |
軽作業員 | 16,929円 | +6.3% |
とび工 | 28,461円 | +6.2% |
鉄筋工 | 28,352円 | +6.6% |
運転手(特殊) | 26,856円 | +6.3% |
運転手(一般) | 23,454円 | +7.2% |
型わく工 | 28,891円 | +6.6% |
大工 | 27,721円 | +4.9% |
左官 | 27,414円 | +5.0% |
交通誘導警備員A | 16,961円 | +6.4% |
交通誘導警備員B | 14,909円 | +7.7% |
参考:国土交通省「令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
主要12職種は通常、公共工事において広く一般的に従事されている職種を指します。主要12職種の人工代の相場は、22,100円と前年より6.2%増加傾向です。
建築業の全職種における公共工事設計労務単価の相場も、23,600円と前年と比べて5.9%増えています。
全国平均の相場の人工代を出しているので、同じ業種でも地域によって異なります。
平成25年度以降、12年連続で上昇しており、業界全体で人工代の相場が増加し続けていると言えるでしょう。
人工代の計算方法
人工代の計算方法は、以下の通りです。
1人工×労働日数×人数=人工代 |
たとえば1人工が3万円と決められている場合、1人で4日労働すると、3万円×4日間×1人=12万円の賃金が発生します。人工代は12万円となり、表記は4人工です。
働く人数が3人に増えると、3万円×4日間で12人工となり、合計36万円が人件費となります。
建築業界では、当たり前に使われる単位なので覚えておくとスムーズに計算できます。次に、人工代の請求書の書き方について見ていきましょう。
人工代の請求書の書き方
人工代の請求書を作成する際は、必要な項目を記載しなければいけません。
建築業で使われている請求書は、基本的な項目が含まれていればフォーマットは自由です。
それぞれの人工代の請求書に記載すべき項目を解説していきます。
請求書の宛先
請求書の宛先には、以下の項目を記載します。
- ・発注者の社名や事業部名
- ・発注者の氏名
- ・担当者の氏名
会社名を記載する際は、株式会社を(株)、有限会社を(有)と略して書くのはマナー違反になるので、注意が必要です。
敬称は会社名のみであれば「御中」、会社名と担当者名を記載する場合は「様」を使用しましょう。
請求者の発行者
請求者の発行者は、以下の項目を記載します。
- ・自社の社名や屋号
- ・事業部名
- ・担当者の氏名
- ・住所
- ・電話番号
社印の押印は、取引先によっては要求されることもあるので、迷った際には押しておきましょう。
請求内容
請求対象となる商品名やサービスの名称を記載します。品目・金額・数量の3項目は基本的に必要です。
請求書は提供されるサービスの内容と単価、時間と日数・数量まで明確にしましょう。
- ・品目:提供した作業やサービスの内容を具体的に記述します。工事内容には、人工代(何人 × 何日間)と記載しましょう。
- ・単価:提供したサービスの単価を記入します。一般的には1つの取引に対する金額です。たとえば、時給や作業範囲の1m²当たりの金額など単価を明確にしておきます。
- 複数の現場で作業をした場合は、どの現場の金額かを明示しておきましょう。
- ・数量:実際に提供したサービスの量を記入します。たとえば、総労働時間や作業面積、資材の個数など細かく書きます。数量は「人数×日数」の数字を記載し、単位を「人工」にしましょう。
消費税の表示
消費税は軽減税率の対象外である品目(10%)と、軽減税率の対象となる品目(8%)を分類して、それぞれ記載します。
人工代は通常、軽減税率の対象に適用されないので消費税は10%です。
請求書番号
一般的には、請求書の右上に請求書番号を記載します。請求状況や入金などを後から確認しやすくするためです。
見積書と請求書を同じ番号にしておくと、関連付けて簡単にチェックできます。
取引年月日
実際に取引した年月日を記載します。請求書の発行日とは異なるので注意しましょう。
支払期日
支払遅延を防げるため、事前に請求先と取り決めた支払期日を記載します。
振込先
一般的に記載する振込先に関する情報は、以下の通りです。
- ・銀行名と支店名
- ・口座の種類と名義
- ・口座番号
- ・口座名義
振込手数料の負担先についても、記載しておきましょう。
特記すべき事項
特記事項は、主に以下のような支払に関することです。
- ・請求と支払における特別な条件がある場合
- ・支払期日の変更や分割払いなど
インボイス(適格請求書)の場合
インボイス制度に対応した請求書の場合は、上記に加えて以下の項目が必要です。
- ・インボイス登録番号
- ・軽減税率の対象である旨の表記
- ・税率ごとに区分した消費税額等
- ・税率ごとに区分して合計した、税抜または税込対価の額および適用税率
人工代計算の注意点
人工代を計算する上で注意すべき点は、契約形態や勤務形態によって「外注費」と「給与」のどちらで扱うのか判断しなければいけないことです。
建築業界では普段依頼している常用の大工に人工代を支払う場合、一般的に外注費として扱います。
ただし、契約形態や勤務形態によっては、給与として扱うケースもあります。
具体的に以下のケースは給与と見なされる傾向です。
- ・仕事を依頼している常用の大工との間に雇用契約を結んでいる場合
- ・自社の指揮監督の下で仕事を進める場合
給与として支払うところを、外注費として取り扱ってしまうと追加徴税されるおそれがあります。
人工代を外注費にするべきか給与にするべきか迷った場合は、国税庁の「消費税法基本通達」を参考に確認しましょう。
人工代計算に使うツール
人工代計算には、手書きよりも便利なエクセルテンプレートや現場管理アプリを使う方法があります。
それぞれの特徴やメリット・デメリットについて解説します。
エクセルテンプレート
PCに搭載されているエクセルテンプレートで人工代を計算すれば、データを入力するだけで簡単に人工代の集計が可能です。
エクセルテンプレートで人工代を計算するメリット・デメリットは、以下の通りです。
メリット
- ・必要事項を入力するだけで計算できる
- ・自動計算で計算ミスを防げる
- ・紙印刷や複製がすぐにできる
デメリット
- ・セキュリティ対策が必要
- ・法改正に応じてテンプレートの変更が必要
エクセルはPC環境に適した管理方法で、事務所で請求書を作成できます。
ただし、情報漏洩対策としてセキュリティ対策が重要で、法改正があればテンプレートを変更しなければいけないのはデメリットです。
エクセルテンプレートを活用すれば、入力するだけで正確な人工計算ができるため、ミスも防ぎ作業も効率化されます。
現場管理アプリ
現場管理アプリは、人工代計算を自動計算してくれるので、入力が不要です。
現場管理アプリはスマートフォンやタブレットから、関係者のスケジュールやタスクが可視化できます。
現場管理アプリで人工代を計算するメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット
- ・データの一元管理が可能
- ・現場担当者が素早く請求書を作成できる
- ・社員と情報共有できて複数人の確認が可能
- ・クラウド型なので法改正にも自動対応できる
- ・導入や運用に対してサポートが受けられる
デメリット
- ・導入時の初期費用やランニングコストがかかる
- ・デバイスやインターネット接続が必要
- ・操作に慣れるまでに時間がかかる
現場管理アプリを利用すれば、円滑な人工代の計算ができます。現場担当者がその場で、人工代の請求書の作成や確認が素早くできるのはメリットです。
現場にいない社員とも情報共有できるため、ダブルチェックが可能でミスを軽減できます。ただし、初期費用やランニングコストがかかるデメリットもあります。
作業員の勤務状況を把握しながら、スマートフォンやタブレットで正確に素早く人工代を計算したい方は、現場管理アプリを活用しましょう。
人工代計算におすすめのアプリ

現場管理アプリの利用を検討している、気になっているという方におすすめの現場管理アプリとして、「現場ポケット」をご紹介します。
現場ポケットは、工程表の作成やPDFへの変換など、多彩な機能を1つのアプリで利用できる現場管理ツールです。
2025年1月時点で、導入実績は35,000人以上、契約更新率は約95%と、高い実績を誇るアプリです。
現場ポケットは人工代計算の作成や管理ができます。
現場ごとにかかった作業人工や、職人別の作業人工をファイルで出力できます。職人の出退勤管理や人工計算の効率化も可能です。
複数あるデザインのテンプレートを用意しており、直感的な操作性で簡単に書類を作成できます。
また1つの現場だけでなく、複数の現場を一覧形式で確認できるため、あらゆる現場を担当している方でも問題なく利用できます。
さらに、アカウント数やデータ容量の追加といった追加課金がなく、年間契約費用のみで利用できる点も魅力です。利用料金は11,880円/月(税込)で利用可能です。
人工代の計算を効率化したい方や現場管理アプリを試してみたい方は、ぜひ「現場ポケット」の利用を検討してみてはいかがでしょうか?
まとめ
以上、人工代の計算について解説しました。
今回の記事の内容をまとめると以下の通りになります。
- 人工代は見積書や請求書の作成に必要
- 人工代とは作業員1人あたりが1日働いた人件費
- 人工代の相場は業界全体で増加傾向
- 人工代の計算は単価・日数など正確さが重要
- 人工計算は現場管理アプリが業務効率化につながる
人工代の計算は、作業内容や単価・日数など具体的な情報が大切です。人工代の請求書を作成する際は、書き方やルールを知っておかなければいけません。
現場管理アプリは初期費用やランニングコストがかかります。とはいえ、工事現場において作業員の出退勤管理や人工計算の作成など、あらゆる業務を一元化できます。
現場別や職人別といった個別集計表が出力でき、スムーズな給与計算が可能で便利です。PCが不慣れな方でも簡単に活用できるので、ぜひ導入してみてはいかがでしょうか。